《MUMEI》
東郷君
「俺が、“普通と違う”って気づいたのは、小5のとき。
初恋の相手が…クラスの男の子だったんだ」


あたしは静かに耳を傾ける。


「俺、親が再婚で…血が繋がってないから、幼心にさ、
こんなことバレたら追い出される、捨てられる―…
って思って、ずっと隠してた」


―ズキン、とあたしの胸が鈍い痛みを覚えた。


「…でも、トモくんだけには話した。
トモくんは、初めて会ったときからすごく明るくて、
よそ者の俺にも普通に接してくれたんだ。
―…だから、ある日トモくんに
“男の子が好きだ”、ってこと、正直に話した」


そこで一旦言葉を切って、
東郷君はふっと微笑んだ。


「そしたらさ、一瞬キョトンとしたあと、
…トモくん、こう言ったんだ。
“それって、そんなにおかしいことなのか??”―って」


東郷君の微笑みは、優しいものに戻っていた。


「でも、“おとな”からみたらおかしいことだから、
知られたら、きっと捨てられちゃう、って言ったらさ…
“それは大変だ!!おれがなんとかする”
って…」


東郷君は、微笑みを消してあたしを見据えた。


「―…それからなんだ。
トモくんが、嘘つくようになったの、って」

「…え…??」

「きっと…トモくんも、子どもなりに考えたんだろう。
“おれに大人の目が行けば、
司の秘密には誰も気づかない”
―現に、今まで俺は
トモくんの嘘に守られてきたんだ」


ここまで話すと、東郷君はあたしに向き直った。


「…それからずっと、トモくんが好きだ。
トモくんを失うのが、怖い。
俺に好かれてるって知ったら、
…いくらトモくんでも―…
…気持ち悪がって俺から離れていくよ。
だから言わない。
だから…傍にいられるだけでいいのに…!!」



―パシッ!!―



…身体が、勝手に動いていた。

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