《MUMEI》
タンカ
いきなりあたしからビンタを食らった東郷君は、


「…っつ!!何すん…!!?」


そこまで言うと、あたしを見つめたまま固まってしまった。



―あたしがぼろぼろと泣いていたからだ。



「…だからって…だからって、女の子を…
東郷君自身を傷つけてもいいの!?

東郷君は、もう…充分傷つい、てる…よ!!

…梶野は!!そんな東郷君を…心配してたん、だよ!?

梶野が、東郷君を気持ち悪がるワケ、ない、じゃ…な、い…ッ!!!

あ、諦めちゃ、だめ…だよ…!!」


タンカをきっておきながら、
涙が止まらない。


東郷君の痛みが、直に伝わってくる。


東郷君は


これほどの痛みを抱えたまま


好きな人への想いを


押し殺してきたんだ…


きっと、東郷君もわかってるんだろう。

たとえ気持ちを伝えたところで、


梶野が変わることは無い、ってこと。


でも…



「怖かったのは…
いつかは…トモくんのことを、
諦めなきゃいけなくなる、
ってことだったんだ…」


東郷君が、つぶやく。


「俺は、ずっとわかってた。
俺に対してのトモくんの気持ちが
変わることなんて無いってこと―…

でも、…だから怖かった…!!


―…本当は、ずっと誰かに言って欲しかったのかもしれない…。

“諦めなくても、いい”

―…って…

…ごめん……
―…ありがとう…相原さん…」


目に涙を溜めてそう言うと、
東郷君は、右手で顔を覆った。



2人分の嗚咽が

西日で、淡いオレンジに染まった部屋中に

響き渡った。

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