《MUMEI》
刻む音
思わぬ形で両親の過去を聞いた今宵は、何を言っていいのかわらなかった。

こんなに幸せだった日々の裏には、こんなに残酷で悲しい過去が有ったなんて。

2人の間には時計の時を刻む音しかない。

この音でさえもカウントダウンされているとしか思えない。

自分の心臓の音の速さと重なるこの音で。

いつからだったんだろう。

自分の時を刻むものが狂い始めたのは。

今宵は心臓の辺りに手を置き、優しく叩いた。

こうすれば狂ったものが元に戻るのではないか、と思いながら。

「今宵・・・・・・」

「・・・お母さん。お願いがあるの」

今宵は辛そうに顔を歪めている加奈子を真っ直ぐに見つめる。

「何・・・・・・?」

「あのね、このことは誰にも言わないで欲しいの」

「どういうこと・・・それ?」

「私もお父さんとお母さんの子供だからね」

「・・・もしかして・・・!!」

小さく笑みを浮かべている今宵を見て、加奈子は自分の考えていることが正しいことを悟った。

この子・・・このままこのことを言わないで過ごすつもりなの・・・・・・?

誰にも・・・ふーくんにも・・・・・・・。

私達と同じように辛い思いをしながら生きていくって言うの!?

「今宵・・・・・・!!」

「私には何が一番良いのか分からない。でも・・・このままでいたいって思ったの。だから、」

ごめんね。

何に対しての謝罪だったのか。

それは加奈子には、今宵にも分からなかった。

「じゃあ・・・お休みなさい。お母さん」

今宵はゆっくりと踵を返してリビングから出て行った。

その表情は・・・分からない。

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