《MUMEI》
理由
あたしの質問に、一瞬キョトンとした顔をしたかと思うと、
梶野はにやっと笑って、


「ばれたか。」


と、あっけなく嘘を認めた。


「…じゃあ、家が東地区にあるの、ホントなの!?」

「うん。ほんと。」

「―…なんで、
あたしとおんなじ方向だなんてうそ―…!」


あたしが問い詰めると、
梶野は柔らかく微笑んで、口を開いた。


「…あのさ、
おれたちが同じ学校、ってのも、
すごい低い確率なんだぜ??

同じクラスってのは、もっと低い確率。

…補習、2人だけってのは、
もっともっと低い確率なんだって!」


そこまで言うと、梶野は首を少し傾げて、

困惑気味なあたしの顔の横に手を伸ばし、
ぴょんと跳ねたあたしの寝癖にそっと触れた。


「―…だからさ、もっともっともっと低い、
家がおんなじ方向、って確率ぐらい
勝手に作ってもいっかな〜って思って!!」


イタズラっぽい梶野の笑顔に、
あたしの緊張はほどけていった。


「でも、大変なのに、なんで…」

「体力つくし!!おれ部活してねえからさ。
―…それに、相原と補習でいろんなこと話して、
もっといっぱい話したい、って思ったし。

…理由、それだけじゃだめ??」


梶野の笑顔を見てると、
小さなことでぐだぐだ言ってる自分が
なんだかバカみたいに思えてきた。


「ううん。…じゅ−ぶん!!
―…だから、謝らせて」

「…え??なにを」

「―…1年前、ボールから護ってくれたの、
梶野だった、って聞いて…

あたし、なにも知らなくて―…

…ごめん、ね…
あたし、梶野に助けてもらってばっかり。
迷惑かけてばっかりで―…」


それだけ言って俯くと、


「ばっかだなー!!」


いつものノーテンキな声が返ってきた。


「―…な…!バカって…!!」


顔を上げると、

梶野と瞳が合った。



目が


離せない―…



「あれは、おれが偶然居合わせただけ!!
怪我っつっても、青タンだぜ!?

…あのなあ、
誰にも迷惑かけてない人間が、この世にいるか??
―…いーんだよ、迷惑ぐらい幾らでもかければ。

誰かが助けてくれるってことは、
それだけ自分が人に優しくしてる、
ってことなんだって!!

…だから、“ごめん”じゃなくて、
“ありがとう”だろ!?」



―…最近、涙腺ゆるんでるのかな…??



ちょっとだけ、
泣きそうになった。


「…ありがとう」


もう、瞳が合っても逸らさない。



いま目に映る何もかもが


きらきらと輝いて見えた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫