《MUMEI》
偽装物箱詰作業
―午後九時三十六分
「先生達みんな帰ったよ」
「ご苦労さん」
晴香は静かにドアを閉めた。
「ねぇ八神はさっきからあたしをパシっといて、自分は何してんの?」
見回りを終えた晴香は地下室へ来るなり言った。
「倉庫に運ぶ薬物を詰めてるに決まってるだろ。少しは頭を使え。飾りじゃないんならな」
「なっ!飾りじゃないよ!ちゃんと働く頭ですぅ」
晴香は舌を出してあっかんべーと言った。
「ガキじゃあるまいし、使える頭があるなら手伝ってくれ」
晴香は口を尖らせて八神を睨んだが、八神は全く動じない。
「仕方ない。わかったよ。」
晴香は机を挟んで八神の向かいに座った。
「で?何すればいいの?」
晴香が聞くと、八神は山積みになっていた袋から一つ取り出して、晴香に渡した。
「なにコレ?」
「ただの風邪薬だ。保健室から拝借して来た」
「なんでこんな物使うの?」
言って晴香は又馬鹿にされるのでわないかと思った。カンは的中した。
「やっぱり君は馬鹿だ。手ぶらで行ったら怪しいだろ?薬物の入った箱を持っていないと又怪しまれる。夜だから偽物でも似ていればそれなりに見えるだろ?だから持って行く。」
八神はそこまで一息で言うと、大きく溜め息を吐いた。

二人は黙々と、風邪薬を透明の袋に移すと言う作業を繰り返していた。
晴香は不意にあくびをしてしまった。慌てて口を塞ぐ。
八神は呆れたような顔をした。
「やっぱガキだね君は。そろそろおやすみの時間だろう。寝ていいぞ」
八神はそう言うと、自分のソファーにかかっていた毛布を晴香に渡した。
「八神は寝ないの?」
「僕は平気だ。行く前に起こしてやるから安心して寝ろ」
晴香は不満そうに口を尖らせる。
八神は視線を感じているのだろうが、無視をしている。
晴香は今度は八神を睨みつける。
「アハハッ」
突然八神が笑った。
晴香は目を丸くして驚いている。
「や‥八神?」
八神は緩んだ顔のまま晴香を見て、
「大丈夫だ。君を襲うわけないからな。安心しろ」
と言った。
晴香はその言葉に苛立ち、自分の靴を八神に投げた。……避けられた。

晴香はそのまま横になり、深い眠りに落ちて行った。

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