《MUMEI》
月と飼い猫:ミルク
俺の母さんの口癖は
『満月の夜は何かが起こる』
そして‥俺の日課は、皆が寝静まった頃に屋根の上で、飼い猫:ミルクに愚痴ること。

「ミルク〜今日テストだったー」
「みー」
ミルクは俺のズボンを掻きながら、左ポケットに入っているにぼしをねだった。
俺はにぼしを取り出して高々と上げた。
「もうちょっと付き合ってくれたらあげるニャー」
「みーみー」
「痛っ!」
ミルクは俺のすねを引っ掻いた。血がにじんで来た。
俺はバラバラとにぼしをまいた。
「はいはーい。どうぞ」
ミルクは飛び付くように食べだした。
俺はミルクの頭を撫でた。
「お前は気楽でいいよなー」
俺はゴロンと寝転んだ。
真っ黒な空には星が瞬いていた。緩やかな曲線の天の川と真ん丸な満月も見えた。
「ミルクー七夕明日だなー」
「にー」
「学校でさー、七夕祭りがあってみんなで短冊書くんだって」
「にー」
ミルクは顔の回りをペロリと舐めた。
「願い事…なにがいいかなー?」
「にー」
「俺、頭もいいし、顔もいいし、スポーツもできるしなー」
「嘘つけ。バァーカ」
「あっはっはっバレた?」
「当たり前だ。何年お前の愚痴聞いてると思ってんだ」
「あー、確かにっ!!」
俺は起き上がって周りを見渡した。
ミルク以外誰も居ない。俺は、ミルクが食べようとしていた、最後のにぼしを取り上げ、ミルクの顔をじっと見た。
「ミルク…今…しゃべった…?」
「みー」
ミルクは爪を立てて俺の足の上に置いた。
爪が足に食い込んだ‥。痛いっ…!
「結構我慢強い奴だニャー」
俺は目を真ん丸にした。
「…ミルクちゃん?」
「俺はオスだニャー。阿呆。」
俺は背中に変な汗を流しながら後退りをし、急いで梯子から降りようとして、足を踏み外して、庭の花壇に突っ込んだ。
「大丈夫かニャー?」
ミルクは屋根の上から俺を見ていた。

――満月の夜は何かが起こる…。

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