《MUMEI》
錯乱
 

 全部罪になるそうだ。

 私がしたことは、一から十まで犯罪になのだそうだ。逮捕された時に警察にそう言われた。


 ある時、一樹が充電中で忘れていった携帯電話の着信履歴を見た。

『舞』とあった。
見知らぬ名前だった。メッセージが残っていた。

「舞です。この前
は、ご馳走様です。一樹さんと過ごせてとても楽しかったです。今度は、舞の家に遊びに来てくださいね」

舌ったらずのベタベタの甘い声だった。

一樹さんと過ごせて楽しかったです。舞の家にも遊びに来て。一樹さんと過ごせて。楽しかった・・・。

私は、繰り返し繰り返し、何度も伝言メッセージを再生した。

 再生するのを終えると、私はしばらく放心した。

 はっと我に返ると今までの一樹の態度がようやく腑に落ちた。
 
 『舞』という名前には覚えがあった。

 度々、香水の匂いを付けてくるようになった頃、背広のポケットから1枚の名刺を見つけたのだ。
ご丁寧に『舞』の携帯ナンバーが記されていた。
  
 私は、その番号を手帳に書き写すとポケットに名刺を戻し帰宅した夫に何事もなかったよう振る舞った。

 翌日から私は帰宅時間を見計らって旦那の会社の前を張り込んだ。

 一樹は、定時に帰社し、駅に向かうと駅前のカフェで女と待ち合わせしていた。尚も尾行すると、二人はタクシーに乗り込み、あるマンションの中に姿を消した。

 次の日から私は、舞に十分おきに無言電話をくりかえした。舞のマンションのポストの郵便物を粉々に砕き、また元に戻した。

 一樹の前では、そんな姿は微塵もださなかった。そのことがストレスに拍車をかけたのか、私の舞に対する嫌がらせは、次第にエスカレートしていった。

舞の郵便ポストに割ったビール瓶や、残飯を入れた。それではあきたらず、カエルやスズメの死骸も入れた。

 留守録に「この泥棒猫!夫を帰せ」とか「薄汚れたメス豚!淫乱!」と絶叫した。

 頭にきた舞に「あんた、おかしいわ。キチガイじゃないの?」
 と返答された事もあったがその甘い声が余計にあたしの心の奥底から、ぶすぶすと暗煙を燻らせあたしを壊れさせる格好の材料となった。


 


私が逮捕されたのは、何月何日かよく覚えてない。

 確か平日の早朝で、まだ私も旦那も眠っていた。チャイムがなり、こんな明け方に誰が来たのだろうと思ってドアを開けると、テレビドラマでみたような刑事みたいな男が二人立っていた。

と、思ったら本物の刑事で逮捕状をぺらっと顔の前に見せると、「着替えて、署までご同行願います」と重々しく、ドラマのような台詞を吐いた。

 起き出して来た、旦那は、驚く程冷静着替えて荷物を作るように促した。
 こんな時にこんなに冷静な一樹を私は、ぼうっとした頭で、漠然と感心していた。

 私は、手錠もかけられてないし、車もパトカーではなく、普通の車だったので、逮捕されて、連行されている自覚がなかった。

 けれど、警察に着いて、両方の指紋と写真を撮られて、婦人警官の前で、まっ裸にされて、体内検査をされて、ようやくただ事ではない事態に気づいた。


 懲役一年、執行猶予三年があたしについた罪状だった。




 愛という名の ジレンマだ。




愛は、時に人狂わせ犯罪者にさせる。

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