《MUMEI》

「菜乃花!」


「雅樹。何しに来たの?」


あの日から、雅樹は私の事を名前で呼ぶようになった。別に嫌じゃないんだけど。

何か、違うんだよなぁ?

まぁいいか。


「遊びに来てやったんだ!」


雅樹は偉そうに言った。


「はぁ。頼んでないし」


私があきれてそっぼ向くと

「何か今日は機嫌・・・悪い?」


と雅樹が私の顔を覗きこんできた。


「別に」


私はそう言ってお気に入りのあの場所から出ていった。


「・・・」

こう言う時、雅樹は絶対追いかけて来ない。

だから私は安心して逃げられる。


私の記憶はまだ戻らない。
でも、雅樹との思い出があるから。
雅樹との思い出が心の支えになってくれた。
記憶がなくても、自分が何者か分からなくても、雅樹と一緒なら怖くないとおもえた。

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