《MUMEI》
月と不運な少女:梨生
―満ち欠けの月には、いい思い出がなかった。
三歳の頃…迷子になった日の夜も満ち欠けの月。パパが経営してた会社がつぶれて夜逃げした日も満ち欠けの月。バイトの面接試験で落ちた帰り道も、満ち欠けの月があたしを見ていた。
だから、あたしは月が嫌い。
…高いとこからあたしを見て笑っているようで…。

あたしの家は、潮のにおいがするところにある。

「ママー!律と陸と凜が居なーい!あと朝ごはんはー?」
六畳半の部屋なのに、あたし達家族は、広い家の様に大きな声で話す。前の家の様に…。
「知らなーい!海じゃないのー?あと、無ーい」
あたしの家は超ビンボーでボロボロ。トイレ共用風呂無しの古い小っさいアパート。窓からは水平線が見える。
「梨生ー?ママ出掛けるねー。今週家がトイレ掃除当番だから。じゃ!」
―バタンッ
鈍い音がした。
あたしは息をついて、ポケットからクッキーを取り出して食べた。
「さて…探しに行こう」
あたしが外に出ると、夏のじりじりとなる前の太陽が土の道を照らした。
あたしは大きく息を吸った。
「律ー!陸ー!凜ー!」
海に向かって叫び、走った。

草が伸び放題になった空き地を抜けると、空の青をそのまま映したような青さの海が広がっていた。砂浜には、Tシャツをビショビショに濡らした三人が砂で城を作っていた。
あたしは三人の側に行って、グーで律の頭を軽く殴った。
「イタッ!何すんのさっデブ梨生」
「あたしゃデブじゃねぇ!あんた長男なんだからママにちゃんと行くとこ伝えなさい!」
「ふぁ〜い」
律は口を尖らせた。
いつもはすぐ見つかる…けど、満ち欠けのひだった昨日は二時間も走った。きっと明日もそうだろう‥。
あたしは深く溜め息をついた。

太陽が西の彼方へ消えかけた夕方。あたしはあの中では一番のしっかり者の陸を連れて潮干狩りに行った。少し寒くなって来た。
「おねぇ、ボクほたて食べたーい。アワビでも良いよ。」
「ダメよ陸。高い物は恐ろしいの」
あたしは鍬で砂をかいた。一つシジミを見つけ、それを陸に見せた。
「ほ〜らシジミさん。陸も見つけてごらん」
陸は顔を輝かせて、鍬を動かした。
あたしも同じ様にした。
―ガッ
(あれ?)
何かにあたしの鍬が引っ掛かった。
(石かな?)
そう思いながら取り出してみると、白い木製の箱が出て来た。
「おねぇ何それ?」
「さあ…開けて見よっか?」
「うん!」
あたしはゆっくり蓋を開けた。
中にはほたて・サザエ・アワビ・カニ・エビが沢山入っていた。まだ動いている‥。
「わー!わー!すごぉーい!」
陸は興奮していた。
あたしはほたてを持ち上げた。何かが落ちたような気がして目をやると、大粒の真珠が落ちていた。
「わぁ‥綺麗」
あたしはつい見とれてしまった。

―これはきっとお月様からの贈り物なのだろう―

あたしはふと、明日はいい日になりそうだと思った。

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