《MUMEI》 王子様―…梶野が… 梶野が、『王子様』!? ぽかんとしたあたしを気にかける風も無く、 りかちゃんは話し続ける。 「…夏休みに、あの…りかが変な男のひとたちに絡まれてるとき… その『かじのせんぱい』が、 助けてくれたんです。 そのとき、りか、足くじいちゃって… ―…病院まで送ってくれたんです…」 ―ん??? …ん!!?? その話…どっかで聞いたよーな… 「あぁッ!!!」 いきなり声をあげたあたしに、 りかちゃんが驚いた表情で尋ねる。 「ど、どぉしたんですか??」 ―…そうだ、補習の遅刻の理由!! 『来る途中に、 すっげえ美少女が転んでてさ!!』 りかちゃんが言ってることと、 少し違いもあるけど… あたしは“どうせ嘘だ”って決め付けた。 ―…ほんとだったんだ… どうしよう… 「あの、せんぱい??」 りかちゃんの声にはっとする。 「あっ…ごめん!!ちょっと思い出したことがあって… き、気にしないで!! …それで、続きは??」 話を無理やり戻す。 「…えと、それで… 普通、りかに会った男の子って、 連絡先とか名前とか訊いてきたり、 自分をアピールしてきたりするんですけど… ―…王子様は、違ったんです。 何も言わずに帰っちゃって、お礼も言えなくて…。 制服で、同じ学校ってことしか…」 「…あの〜…」 「はい??」 「…それ、ほんとのほんとに梶野??」 疑わしくなって、訊いてみる。 「はい!『声』でわかりました。」 「…声…??」 「ハスキーボイスなんです! …顔より、声の方が自信あります!! ―りか、声フェチなんですよ♪」 「そ…そうなの??」 …声、かあ… そういえば、梶野の声はハスキーで、 考えたことも無かったけど―…『いい声』かもしれない。 「…だから、お礼言いたくて、 それからずっと探してたんです!! ―…そしたら、ついに見つけちゃいました☆」 にっこりと微笑むりかちゃん。 「…改めて見ると、男らしくて、笑顔が素敵で… りか、きゅんとしちゃいました…!!」 前へ |次へ |
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