《MUMEI》
デート
 整形外科は、自然治癒力に頼る部分も大きい分野なので、リハビリや手術後のメンタルな部分のケアーも必要なのだろう。

 だけど先生は、人間的で暖かみがある。
 

 小さい頃、体が弱かった私は、病院に通院する事も多かった。どの医者も偉そうで、偽善的で、気に入らなかったのを覚えている。

 聖職みたいに言われているけれど私は知っている。医者という人種は気に入らない患者は、相手にしないのだ。人見知りで、注射が嫌いな私は、泣き叫び大暴れして、先生の言うことが聞けなかった。

 肺炎で入院したときもそれが原因で、強制退院させられた事もある。もちろん表向きは、もっともらしい理由があった。確かあの時は、

「リカちゃんは、自宅で静養させた方が回復の効果が上がるから。」

とかなんとか言われたように思う。おかげで、母は、毎日通院するはめになり、疲れ果てて溜息ばかりついていた。母は私に絶望して、口も聞いてくれなかったのだ。

「握り頼むか。何好き?」

「何でも食べれます。」

「そう。じゃ、特上二人前ね。」

「先生は、いつも嬉しそうですね。」

「嬉しいよ。かわいこちゃんに誘ってもらって。」

 二度もかわいこちゃんと言われ、私は再び顔が熱くなった。酔いも回ったのだろう。

先生は、グラスにビールを注ぎ足しながら私の顔を覗き見た。顔が赤いのがバレそうで恥ずかしくて、私は注がれるまま飲み干していた。

「後藤さん、彼氏とか居るの?」

「いません。」

「ああ、そうなんだ。んで、今いくつだっけ?」

「二十一です。」

「専門学校出たばかりだね。仕事は、楽しいかい?」

「正直言って、楽しくないです。カリスマなんて言われてもてはやされているのなんて、ほんの一握りの人達だけで、見習いは結構、重労働です。」

「なんでも初めは大変だからね。でも、後藤さん、手先器用なんだね。技術を磨かないとね。一に技術、二に顧客作りかな?」

「先生は、整形外科ですよね。当然、手術もしますよね。昔から血とか平気だったんですか?」

「そうだね。ガキの頃はよく、カエルの解剖してたね。父がやはり外科医でね、影響うけたかな。でも、最初の頃は、血みて気持ち悪くてさ、肉料理食べれなくなったりして、八キロ位痩せた事もあったよ。」

先生は、肩幅も広くがっちりした体型だ。今の風貌からは、とても想像出来ない。

「失礼ですけど先生は、おいくつなんですか?」

「僕かい?三十八だよ。」

「お子さんは、小学生くらいですか?」

 なんだか、アンケート調査員みたいだ。だけど会話が見当たらない。

先生は、手酌をはじめて、ついでに私のグラスにも注ぎ足すので、その度にグラススを空にしないと悪いような気がして慌てて飲み干した。

何度も繰り替えされているうちに頭がボーっとしてきた。かなり酔いが回ってきたようだ。

「松井先生って、優しいですよね。先生が助けてくれなかったら私、出血多量で死んでたかもしれない。」

「そんな大袈裟な。」

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