《MUMEI》
関係
「あんなに人通りが多い道路なのに誰も私の怪我なんか気付いてくれなかった。切ないと思いません?先生だけが気付いてくれた。本当に嬉しかった。先生の顔見て本当に安心しました。」

「顔、真っ青で今にも倒れそうだったからね。危なっかしっくてほっとけなかった。」

先生は、真顔で私を見た。全体的に大造りで、精悍な整った顔。先生が私の手を取って、強く握った。子供扱いされてるような気がして、不愉快な感情が沸いてきた。

「子供だと思っているんでしょ。」

何故、こんなに絡むのか自分でも解らない。

「じゃ、出るか。」

残った寿司を折りに詰めてもらうと先生は、いそいそと店を出た。

やばい。怒らせたかもしれない。

私は、再び緊張してカチンカチンに身構えた。先生は、黙ったままスタスタと先に歩いて行く。

私は、小走りで後を追った。先生は、後ろも振り返らずに表通りを抜けて、狭い小路に入って言った。慌てて、小路に入ると先生は、「こっち。」と手招きした。人通りもない小路に入ると先生は、いきなり私の腕を掴むと自分の胸に引き寄せた。

「君、本当に可愛いね。」

先生は、呼吸困難になるくらいきつく私を抱き締めた。

「僕の可愛い羊ちゃん。」

先生が耳元で、そう呟いた。足元がグラついて、軽い眩暈を覚えた。
 

その夜、私は先生の物になった。

 大きな先生の体の中で、、私は幸福の絶頂に包まれていた。先生は、私の痩せっぽちの体を枕かクッシヨンみたいに無造作に抱きかかえ眠っていた。実は、先生も相当酔いが回っていたのだろう。先生の寝顔を観察した。口を開けて無防備な顔だ。そっと髪を撫でてみる。先生の左手の薬指からプラチナの指輪がキラリと光った。
 

起こした方がいいのだろうか。でも、すぐにそんなもったいない事してやるもんかと考え直した。薬指からそっと結婚指輪を外した。ビクッと先生の体が反応して、眼を覚ました。

「こら、悪戯娘。返しなさい。」

先生は、軽く私をたしなめた。

「ところで今何時?」

ベッド横のデジタル時計を確認すると先生は、慌てて服を着た。先生がせわしなく身支度してるいのが癪に触り、服も着ずに布団にくるまった。もしかして、遊ばれたのかも。一度っきりの関係というヤツだ。そう考えると悔しくて抵抗したくなった。

「疲れた?もし良かったら泊まって行ってもいいよ。」

先生は、ネクタイをしめながらのんびりとした口調で言った。嫌味では、なさそうだ。

「一緒に帰ります。」

脱ぎ散らかした下着を着け身支度するのを先生は、穏やかな顔で見守っていた。

 松井征二。三十八。整形外科、医局長。白金台に奥様と子供が二人。

征二さんは、月に二、三度私のアパートに訪れる。征二さんが来ると私は、彼の襟足をカットする。匂いが残る整髪剤は、使わない。
 

征二さんは、手術後や夜勤の前に訪れる。一緒に風呂に入ったりするがやはり指輪は、外さない。

「手術の時は、指輪外すの?」

「手術用のゴム手袋するからそのままだよ。」

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