《MUMEI》
依存症
 その後、私はどういう経路で家に辿り着いたのか覚えていない。ひたすら、携帯とにらめっこだ。

 しかし、夜が更けても朝が明けても携帯電話は、とうとう鳴ることはなかった。
 
 私は、征二さんの携帯番号は知らない。聞く必要もないと思っていた。だけど今日程、征二さんの声が聞きたいと思った日はなかった。

 今頃、みちるとかいう看護婦と二人で一緒にいるのだろうか。あの女が征二さんの行動を阻んでいるかもしれない。嫉妬で気が狂いそうだ。だけど征二さんは、とうとう月が替わっても部屋には、現れる事はなかった。

 みちるに言われた事が頭の中をぐるぐるする。
 

 征二さんは、今は勤務医だけどお父様が開業医だ。いわいるサラブレット家系の家柄だ。金銭的にも恵まれているだろう。性格もさばさばしていて、優しくていい男だ。なぜ今まで自分以外の女がいる事に気が付かなかったのだろう。みちるが言ったように私の事は、つまみ食いの類なのかもしれない。もちろん認めたくない。だけど一ヶ月も音信不通なんて、フェイドアウトされているとしか思えない。

 これはみちるの宣戦布告で、おざなりにされていた自分に征二さんの感心を惹くようにしたのだろうか。そして、自分は負けたのだろうか。許さない。そんなの絶対許さない。
 

 チャイムが鳴った。

 さっきまでの粗々しさが嘘のように胸を弾ませて、一目散に玄関に向かう。ドアスコープを覗く。征二さんだ。

「ごめん。連絡しなくて。」

「心配だった。どうしてるのかって。」

「妻の実家に不幸があってね。あと、出張が二つ入ってさ。忙しくて…。少し痩せた?」

征二さんの言葉に溶けてしまいそうだ。言葉の優しさに。

みちるのことも聞きたいし、他に何人女がいて、私は何番目なのかとか、奥様の実家の事など尋ねたい事は山ほどある。

 だけど征二さんに会うとそんな会話や質問は無意味に思える。一度だって、征二さんの気持ちを確かめた事はない。野暮な事を言って、先生の気分を損ねてしまうのが怖いのだ。そんな事で、征二さんが訪ねて来なくなったらその方が私には、耐え難いことなのだ。


私は、自分の気持ちにちゃんと向き合った事がない。征二さんの行為をひたすら受け止めるだけだ。
 

 羊は、意志を持たない。


私は、依存症なのだと思う。

極度の恋愛依存症…。

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