《MUMEI》
征二の妻U
 こんな茶番劇、飲まなきゃやってられない。
 
 ボーイが前菜を持ってきた。鯛のカルパッチョに細かく刻んだ芽葱とキャビアがトッピングされていた。

「征二は、キャビア好きなのよね。そういえばリカちゃんお料理上手なんですってね。つまみなんか、すぐ作れるんですって?あのひとグルメだから大変でしょ?」

キャビアもグルメも今日、初めて知った事だ。

征二さんは、出された料理にうんちくをつけた事もないし、キァビアが食べたいなんて口にした事がない。本当に今日あった出来事みたいに征二さんは、奥様に私の事を話しているのだろうか。自尊心が破壊されそうだ。フォークを持つ右手が震える。

「つかぬことお聞きしますけど、みちるさんの事は、ご存じでしょうか。」

「ああ、看護婦さんのね。知っているわ。二年位征二とお付き合いしている方よね。お仕事はすごく出来る方なのに男の人見る目がないみたいで…。本当に気の毒な方だわ。」

 眉間に皺を寄せて、伏し目がちに彼女は言った。まるで、自分は上で、完全にみちるを蔑んでいるといわんばかりの偽善な言葉に心底腹がたった。キッと彼女の顔を睨み付けたが彼女は、気が付かず話を続けた。

「まだ他に三人いるのよ。征二の羊ちゃん達。」

「その三人とも会ったんですか?」

「ええ、そうよ。」

 涼しい顔で、彼女は、微笑んだ。言葉を失った。

この人は、おとなしそうで品良くしてるけど恐ろしい人だ。

まだ正面きって敵意剥き出しなみちるの方が可愛げがある。みちるも、他の三人もこうして奥様に呼びつけられて、物色されていたのだろうか。

「満足ですか?」

「えっ?」

「征二さんの愛人、みんな呼び出して満足ですか?」

「アハハ、リカちゃんって面白い子ね。気に入ったわ。」

頭が痛い。この女と話していると脳みそが溶けそうだ。つき合っていられない。いったい、どことどこの回線を繋ぐとこういう脳天気バカが出来上がるんだろう。

 しらけていく私とは対照的に彼女は饒舌だった。

「そうね。みんなタイプが違うから征二の好みは幅が広いのね、って勉強させられるわ。だけどあなたは、本当に面白いわぁ。良かったら私とも仲良くしてくれないかしら。ねっ、今度家に遊びにいらっしゃいな。」

「いえ。結構です。」

「遠慮しないで是非、いらして。征二にも話しておくから。」

いつのまにか両手を握りしめられていた。日本とどこかの国の友好条約の瞬間みたいな空気に寒気を覚えた。

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