《MUMEI》
伊藤視点
缶ビールも飲み飽きた。
テレビもつまらん。
何だかメールの返事も来ないし、何度も電話するのもしつこいかと思って、すっかり諦めている。
――あの子、携帯まーた充電してねーのか、または電源入れてねーのか…。
――まー…、そんな事位であんなに若い子にやきもきさせられている俺ってなんか可愛い過ぎだろ…。
そう思ったら何だか笑えてきた。
別に本人に確認とんなくたって…、
いや…別にムリしてホテルなんか取んなくたって、一緒に過ごして貰えればいーじゃないか。
あーでも声は聞きたい。
……もう一回かけて…それで駄目ならもう寝ちまお……。
俺は空き缶をゴミ箱に捨て、携帯を開けた。
何度か基礎正しい音を繰り返し、そろそろ案内に切り替わるかと、溜め息をつきながら…覚悟を決める。
『はい…』
「ゆ…、ゆうちゃん!やっと出てくれた。
どーしたんだよ、一体ー!」
ほっとしたのと嬉しさと愚痴りたい気持ちが一気に吹き溢れた。
『ゴメンなさい…、あの、いま俺…、秀幸のマンションの…玄関の前に居るんだけど…』
「マジかよ!」
俺は携帯を耳にあてたまま、急いで玄関を開けた。
「裕斗…」
そこには裕斗が同じ様に携帯を耳にあてたまま立っていて…。
俺は裕斗の腕を強引に引き寄せ、腕の中に引き入れた。
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