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《MUMEI》 左利き放課後。 体育祭準備のために、 授業は早めに終わった。 あたしたち看板係は、 最後の仕上げの色塗りをする。 「よっしゃあ!!今日終わらせるぞ!!!」 梶野の元気な声で、色塗りがスタートした。 あたしが赤のペンキを塗っていると、 梶野があたしの右隣にやってきた。 「相原〜!!おれも赤塗りたい!!」 「なんで?あっちの緑塗ればいいじゃん」 「やだ。赤がいい!!」 ―…コドモか!! 「…も〜…じゃあ塗れば??あたし緑塗るから」 あたしが立ち上がろうとすると、 「え??相原も赤塗ればいーじゃん!!」 梶野に引きとめられた。 「…あのねえ、梶野、左利きでしょ?? 隣で塗ってたら、腕ぶつかるじゃん!!」 あたしが答えると、 (言い忘れてたけど、梶野は左利きだ) 「…あ、そっか」 感心したように梶野がつぶやいた。 「じゃあ、あたしあっちに―…」 「じゃあ、おれ、左側に座るわ♪」 あたしの言葉を遮ってそう言うと、 梶野は左側に移動した。 「おっし!!塗ろーぜ!!」 そして、腕まくりをしながら気合を入れると、 梶野は赤いペンキを塗りだした。 「…もー…」 言い返すことも無かったので、 梶野の右隣に座る。 …まだ調子戻ってないから あんまり、近くに行きたくなかったんだけどな―… そんなことを考えていると、 あたしの左耳に 『スタンド・バイ・ミー』 が流れ込んできた。 「…へったくそ」 あたしがつぶやくと、 「うるせー!!これはおれなりのアレンジだ!!!」 という、なぜか自慢げな声が返ってきた。 ハスキーボイス。 …あの星降る夜を思い出す。 赤いペンキを刷毛で広げながら、ふと 「また、あの星見れるかな…?」 そう訊くと、 「…おう!また見よーぜ!!」 梶野がノーテンキにそう答えた。 「花火も、星も。…また、見たいな…」 無意識に、あたしの口から零れた願い。 「…おう。…また、来年な!!」 そのときあたしは まだ気づいてなかった。 流れ星は、今はもう消えた星。 二度と 同じ星を見ることは出来ない、 ってことに―… 赤いペンキは 梶野の歌う、 へたくそな 『スタンド・バイ・ミー』 に合わせるように 少しづつ、広がっていく。 前へ |次へ |
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