《MUMEI》

一陣の風が吹く。

ざわざわと鳴く桜は、咲けばさぞかし壮観だろうに。


また、桜に視線を移す。


「…好きだ」

「え…?」

「…あの、桜が」


フッと自嘲気味に笑んだのは、誰に気付かれることもなく。

目の前の桜は、ざわざわと。

俺の心も、ざわざわと。


いつもいつも痛むのは、心臓の裏側。



「…私も…好きですね」


後ろで、佑哉が微笑うのを感じる。

義妹に視線を移すと、黒真珠のような瞳と目が合った。

『なぜ』と聞く唇は、言葉を放つことはなく。
野暮な質問だと口を閉じた。


「似てるんです。あの桜と私…」


 こんなこと言ったら怒られちゃいますかね?


と。

それは『俺に』なのか『あの桜に』なのか。

ただそんなことよりも、佑哉がそう思っていることが嬉しくて。

それと同時に

それなら
お前の心の内にも咲かぬ花があるのかと。

やたら、悔しくなった。

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