《MUMEI》

 
「佑哉」

「はい?」

「何か…用があったんじゃないのか?」

「あぁ、いえ…」


「何も」と、暖かい日の光を浴びて朗らかに笑う。

この娘はまた、俺の心を奪っていくのか。

一かけらの余裕さえ。


「そうか」



決して、照れたわけではない。


決して、恥ずかしいわけではない。


義妹から視線を反らしたのは。

苦し紛れに桜を見遣ったのは。


「そうか…」


ただ、嬉しさに歪む顔を見られたくなかっただけだ。

ただ、ただ…。

息が詰まるほど、胸が苦しい。


なぜ、こんなにも。

なぜ、俺は。


愛おしさは増すばかり。


底の見えぬ泥沼に、足を取られるようだ。

もうお前と居ることすら辛いのに。


「日が暮れます。
そろそろ戻りませんか」

「もう少し」

「ですが…
お体が冷えてしまいますよ」

「もう…少し」


陰る桜は、実に淋しげに俺を見る。


なぁ、桜よ。

お前が咲くとき、俺の恋も報われるのだろうか。


この、病に廃れた俺にも。

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