《MUMEI》
似てる2人
水泳大会までは、3ヶ月ある。

俺は、水泳は得意だが、有河原樹を甘く見てはいけない‥。

今まで、エベレストの様な高みに居た俺を、何の前触れもなく軽々しく抜かしやがった。

俺は、授業を終えて部屋へ帰った。
有河原樹は机に向かって何かを書いていた。

「ただいま‥」
「あっ!お帰り沢村!」
「何書いてんだ?」
俺は、自分のベットの上に鞄を置きながら聞いた。
「あ、なんかね‥変な書類‥。ほらっ」
有河原樹が見せたのは、優遇待遇を受けることが出来る生徒の証明書だった。既に、はんこが押してあった。

俺は、悔しさからキレそうになったが、外身に出さずに落ち着かせた。

「有河原はなんで頭いいんだ?羨ましいよ」
俺は、悔しさを隠すように言った。
「昔から、親父がうるさくてさ、物心ついた時には家庭教師がいたんだ」
「すげぇな…お前ん家…」
俺が目を丸くしていると、有河原樹が苦笑いを浮かべた。
「そうでもないよ…。僕の親父、国会議員なんだけど、僕は親父嫌いで…だから寮に入ったし…」
「えっ…」
有河原樹の言葉に、俺は思わず声を出した。

―コイツは俺と同じ境遇に居る‥
俺は、有河原樹に親近感を持った。

「でも、沢村も凄いじゃん。スポーツ特待、成績優秀。来月の大会のレギュラーだってな?」
「えっ?なんで、知ってんだ?」
俺がレギュラーに決まったのは昨日の事だ。
「あれっ?学校新聞見てないのか?ほらっ」
有河原樹が差し出したのは、チラシほどの大きさの紙だった。
『剣道部に期待の新星現る!』
でかでかと見出しがあった。その下には、いつ撮られたのかも分からない俺の写真が‥。
「こりゃ、盗撮じゃねぇか‥」
「でも、沢村‥学校中の有名人だよ」
「明日の一面はお前だな」
俺は、有河原樹に新聞を返しながら言った。

「そういえば、この辺にプールってあったっけ?」
「えっ?」
有河原樹は顔を歪めた。

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