《MUMEI》
紬ト時雨
紬と輝は長い廊下を二人歩いていた。

紬は紬の部屋と同じ形をした扉の前で足を止めた。
「ここよ。いい?くれぐれも変な事口走るんじゃないわよ。」
輝は頬を引き攣らせて頷いた。
紬の目がいつになく恐ろしかったからだ。

――コンッコンッ
紬は軽く扉をノックした。
扉が開くと、中から時雨のお付きが顔を出した。
「紬お嬢様。時雨様、紬お嬢様ですが…。」
中で時雨がどんな反応をしたかは判らないが、お付きは少しの間の後、大きく扉を開け、「どうぞ。」と言った。

紬はお付きに笑顔を見せると、
「申し訳無いのですが、少しの間、外で待機を。」
と言った。
お付きは渋々外に出て、扉を閉めた。

「お兄様!ご紹介したい方が居ますの!」
そう言って紬は、時雨が腰をかけていたソファーの隣に、腰を下ろした。
時雨は紬を、なにか気持ち悪い物でも見るかのように紬を見た。
「紬〜お前キモいから普通に喋れよ。」
「えっ?いいの?」
「ああ…それよりコイツは誰だ。」
時雨は輝を指差した。
紬は笑った。
「あはは…バカね時雨兄、あたしの契約天使よ。」
「ふーん…。」
そう言って時雨は舐め回す様に輝を見た。
輝は深々と頭を下げた。
「そんな…畏まらなくてもいいって。」
時雨は困った様に笑った。
輝はゆっくり頭を上げる。
「輝と申します。よっよろしくお願いします!」
輝が再び頭を下げると、時雨は、
「よろしく。頭上げな。」
と言い、天井を見上げ言った。
「おーい、雫ぅ〜客人だ挨拶しろ〜。」
すると、どこからともなく羽が現れて、綺麗な顔立ちの少女が降りて来た。

少女は時雨と輝の間に立ち「雫です。」と頭を下げた。
時雨は雫の背中を軽く蹴飛ばし、
「ご主人様の前に立ってんじゃねぇ!」
と言った。

輝は、雫みたいな契約天使になりたいと思った。

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