《MUMEI》
2人ノ契約天使
「凄いですね…雫さんは。」
「なんで?」
輝は羨ましそうな顔をした。
「契約者様にあんな事が出来るなんて…。」
「じゃあ…あなたも紬様を怒らせれば?」
輝は目をパチクリさせ、溜め息をついた。
「ほんとイイ性格ですね。」

「まあね♪四年も付き合ってれば、弱みの一つや二つ…グヘッ!!」
雫の背中に時雨の蹴りがヒットした。
雫は顔から床に倒れ込む。
「何すんのよ!?時雨!」
「お前はご主人様を侮辱してんのか?あぁ?」
雫は立ち上がって、あっかんベーとした。
今度は時雨の精研突きがでこにヒット。

雫はでこを抱えてうずくまる。微かに鼻を啜る音が聞こえる。
「うっわ〜時雨兄、女の子泣かした〜。葵さんに言っちゃお〜。」
紬は顔をしかめてそう言うと、輝を連れて部屋を出た。
「わっ!待てっ紬!!頼むから葵にはー!!」
時雨は柄にもなく転ぶ真似をした。
一応、時雨のお付きが駆け寄った。

「紬…葵さんって誰?」
二人っきりの廊下で輝は聞いた。
「ん?時雨兄の婚約者だよ。町外れ住む綺麗な踊り娘さん。」

紬達が住む雲の世界には国が一つしか無い。つまり、『隣の国の娘を后に』なんて事は無い。

「時雨兄は契約天使を決めるのと同じ時期に婚約者を決めたから…あたしもそろそろ考えなくちゃなあ…。」
そう言いながら紬は通り掛かった厨房を覗いた。
中からは、炊きたてご飯の様なイイ匂いがした。
「美園シェフ、ディナーはまだかしら?」
使い慣れない言葉で気取っているのが口調からわかる。
「紬様…間もなくお持ち致しますので、食堂でお待ちくださいませ。」
紬はにこりと微笑み「行くわよ。」と輝を引っ張った。

王族の食事に輝は胸を弾ませた。

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