《MUMEI》
病院―晴香編―
あの日からもうすぐ一週間が経つ。

あの後、宣言通り八神を浜辺に捨てた佐々木社長は、証拠隠滅の為、倉庫に火を放った。
港区の倉庫街は一気に炎に包まれ、今までの何も無かったかの様に跡形もなくなった。

あたしが見つけ出した八神は、頭と目から血を流していた。
病院に運び込まれた八神は、数十ヶ所も骨折しており、体中に打撲をしていたが、命に別状はなかったが昨日まで意識不明の重態だった。

―604号室
昨日まで、八神はこの中で眠っていたが、今日は‥ちゃんと八神に会える‥。

―コンッコンッ
「八神、入るよ」
あたしは軽くドアをノックし返事を待った。
「ど‥ぞ‥」
あたしは、ゆっくりドアを開けた。

「君か‥」
八神はベットに寝た姿勢のままあたしを見た。
左腕からは、点滴のチューブがのびていて、頭には真新しい包帯が巻いてあった。

「久しぶり」
「君は何故ここに来たんだ?」
八神は、読んでいた雑誌を閉じて聞いた。
「なんでって‥八神が心配だったから‥」
「君はいらん事ばかり心配しすぎだ」
八神があたしの言葉を遮った。
「もとわと言えば、僕自信の責任だ。殺されなかっただけマシだと思っている」
「そう‥」

あたしは、あの時何も出来なかった。
ただ‥震える体を抑えることしか‥。

八神が苦しんでいる声を聞くことしか‥。

泣くことしか‥。

「ごめんね?」
あたしは俯きながら言った。
「だから、君は何を勘違いしているんだ?言った事は一度で覚えてくれ」
「だって‥あたし‥なにも出来なかった‥」
「僕は何もしなくていいと言ったはずだ」

八神も‥きっとあたしを責めたいのだろう‥だけど‥八神は優しいからそんな事は言えない。

今にも泣き出しそうなあたしを見て八神は呆れた顔をして、
「そんなに謝るなら、明日の朝一にここに来てくれ」
と、言った。

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