《MUMEI》
協力
「なに話してるんですかー??」


いつの間にか、あたしの横に
刷毛を持ったりかちゃんがしゃがみこんでいた。


「りかも混ぜてください♪」


かわいくそういって、あたしに目配せするりかちゃん。

―そうだ。
あたし、『協力する』って言ったんだった―…


「か、梶野!!」


慌てて梶野を振り返る。


「なに??」

「あ…あたしやっぱり緑塗ってくる!!
…赤はりかちゃんに頼んだよ!!」

「はあい☆」

「はあ??」


それぞれの反応をする2人を残し、
あたしは逃げるようにその場を去った。


緑のゾーンに行くと、


…江藤君が緑塗ってる…

手が止まったままの江藤君の視線の先を見ると、

楽しそうに笑い合う、梶野とりかちゃんの姿。


静かに江藤君の隣に座ると、
ちら、とこっちを見て、江藤君は緑を塗りだした。


「…やっぱ、そうだよな…」


ふいに聞こえてきた江藤君のつぶやき。


「…なにが??」


問い返すと、


「りかちゃん。
―と、梶野のこと、さ。」

「…あー…」


なんて答えて良いのか、わからない…


「…さっきまで、オレと話してたんだ、りかちゃん。
…でもさ、ゆきちゃんと梶野が赤塗りだしてから、
喋んなくなっちゃったよ」

「…あー…、うん…」

「りかちゃん、男に絡まれてるとき、
梶野に助けられたんだろ??」

「…らしいね」

「…梶野に訊いたら、驚いてた。
『あれ、姫井だったのか!!』―…って」


江藤君が、梶野の口調を真似る。


「…なにそれ」


あんな美少女、忘れるわけ無いじゃん…


「…だよなあ??
あんな美少女の顔
見るヨユー無いほど急いでたのか??」

「…へ…??」

「…だってさ、りかちゃんの連絡先も訊かずに帰ったんだろ??
めっちゃ急いでたとしか―…」

「…………」


あの日は梶野、補習に遅れてきて―…


「あれ??どーしたの、ゆきちゃん??」


江藤君の声が、あたしの上を素通りする。


まさか、補習のために急いでて…??


梶野のほうに、ちらりと目をやる。

そこには、並んで赤を塗りながら、
時折笑い声を上げる2人がいた。


―…まさか、ね。

…自分で『すっげえ美少女』とか言ってたし!!


「…よし!!江藤君、早く終わらそっ!!」


腕まくりをして、気合を入れる。


「おー!!」


江藤君も、刷毛を持ち直す。


黙々と緑色を塗りながらも、
あたしの頭の中には

りかちゃんに向けられた
梶野の笑顔がちらついて


少しづつ広がる赤色ばかりが

気になってしまった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫