《MUMEI》
病院―八神編―
気がつくと真っ白な天井の下にいた。

僕は生きていたのか…。

しかし、体は動かない。
まったく痛みは感じないが…。

兄貴の話しによると、港区の倉庫街は炎に包まれて消えた。

僕がやってきたことが、すべて水の泡になった。

―得たのは傷だけ。

風紀を乱す者を、結局は逃がしてしまった。

―自分は風紀を乱す側に居たことを痛感した。

後藤には謝らなくてはいけない。
…「さよなら」も…。



「八神…お前本当にいいのか?」
兄貴が僕に聞いた。
その手には、ある書類が。
「松葉杖で歩けるようになってからだから、まだまだ先のことだ」
「でも…」
「いいんだ」
僕は兄貴の言葉を遮った。
「決めたんだ。もう…」
兄貴はまた悲しそうな顔をした。
「明日には後藤さんが来ると思うから…」
「あいつには…」

―あいつには…本当に言えるだろうか…。

病院から見る空は、澄んだ青だった。


「兄貴…」
「なんだ…?」
僕はぼんやり空だけを眺めた。
「最期に…あの桜…見に行きたいな…」

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