《MUMEI》

しんとした教室。

ホッチキスのバチン、という無機質な音が
ただ繰り返されるだけ。


パンフレット資料は、思ったよりも多かった。

本格的に暗くなるまで帰れないだろーな…


一人になって、少し冷静になりたかった

はず

なの、に。


―…どうしようもない淋しさがこみ上げてきた。

勝手だ、あたしは。


あたし…
こんなに、弱かったんだろーか。


今頃、りかちゃんと梶野…
仲良く帰ってんだろうな…


…江藤君には、悪いことしちゃったかな…


あたしの想いは
少しもまとまることを知らずに、
ふわふわと、宙を漂ってるだけ。



窓の外は薄暗く、部活停止期間のせいで、
人の気配は感じられない。


…ちょっと、怖い、かも―…


早く終わらせて、帰ろう!!

でも、考えないようにしようとすればするほど、
怖い想像が浮かんでしまう。


―…そうだ!!

…うた!!

歌、唄おう!!


とっさに浮かんだ曲、

『スタンド・バイ・ミー』

を、小さく口ずさむ。
歌詞はわからないけど、メロディーは知ってる。

そのメロディーが、いつだって
あたしの気持ちを和らげてくれることを、

あたしは知ってる。


バチン、

バチン、バチン…


綴じられる音と、あたしの鼻歌が混ざり合う。


―…ふいに、その寂しい2重奏が、3重奏に変わった。


ばたばたばたばた…


靴音、だ。


廊下を駆ける音。

教室の前で、その音が止まったと同時に、



―ガラッ!!



教室のドアが、勢いよく開いた。

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