《MUMEI》

足を冷やしながら反省する。結局、お礼のタイミング逃したままだ。

「うわあ、何処の女子かと」

南にまで言われるなんて。

「どうやって化粧落としたの?」

南はカメラを下げて化粧は落とし切っている。明日の準決勝、決勝で結果が決まるからだ。

「なんか濡れティッシュみたいなやつ。
足捻ってたんだ。だから七生がやたら密着してたんだな。」

ばれていたか。

「うん、庇ってくれた…………。」

やっぱり、七生は凄い。

「惚気だな。
あーあ、そんな無防備な顔しちゃって、誰かに襲われても知らんよ?」

シャッターを切られた。

「無断で撮るな!」

「七生に許可取ってるもーん。」

捕まえようとしたら逃げられる。

足を水道に突っ込んだ滑稽な姿が鏡の前に晒されていた。

指が足首に回った。こんな骨と皮の足首だから弱いんだ……。

クラスで作ったシャツにハーパンで持ち場に戻る。あんまり動かないようにして指示していよう。

「先輩顔落とすのに使ってくれと預かり物が」

高遠に濡れティッシュのようなものを貰う。


「ウチ先輩歌うんでしょ?」

高遠に言われて思い出した。そうなのだ。七生は司会でありパフォーマンスの中心でありカラオケ大会のクラス代表である。
よって、放送部の仕事は殆ど免除されていた。

正直、朗読の方が心配だ。
去年より明らかに時間がないじゃないか。






馬鹿か……俺はクラスとコンクール天秤にかけて。
どっちも同じように大事でそれぞれ違うものなのに。

なんだかんだ言いつつも七生は嘘をつかないし、真剣にやってくれる。


コンクールだって、きっと尽力してくれるはずだ。

そんなの分かり切ったことじゃないか。
でも、もし俺が誘ったという名の押し付けが嫌になったら、コンクールを切り捨ててしまうかもしれない。

今更、神部の言葉が効いてきた。いや、二段攻撃?

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