《MUMEI》
、、
息を弾ませながら
教室に入ってきた靴音の主は、


―…梶野、だった。



「…な……、か、梶野…??」

「…………」


無言でずかずかとあたしの方へ歩み寄ってくる梶野。


「…り、りか…ちゃん、は…??」


どかっ、とあたしの前の席の椅子に座ると、
梶野はおもむろにホチキスを手に取った。


「…手伝ってやる!!!」


ぶっきらぼうにそう言って、
梶野はプリントを綴じ始める。


「…な…梶野…??」


困惑するあたしを気にする風も無く、
梶野が口を開く。


「…姫井は、えっくんが送るって。
おれは!!―…忘れ物、取りにきただけ!!
…ついでに、手伝ってやる!!!」




―…嘘。


今なら、わかる。

梶野は、息を切らして来てくれた。


忘れ物のためじゃない。

…あたしを、手伝うために。



目を伏せて冊子を綴じる梶野。

ぼうっと、その長いまつげを眺めていると、


「…心配すんな!!
2人でやったら、すぐ終わるって!!」


視線に気づいた梶野は顔を上げて、

無邪気に笑いながらそう言った。




…ふいに、浮かんできた言葉。


―…マキちゃんの声でも、他の誰のものでもない、


紛れも無く、自分の声で、

ふわり、と

…でも、しっかりと。


心に、身体じゅうに
響いた言葉。







 好 き。

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