《MUMEI》
居眠り
授業中も、
東郷君に言われたことが気になった。

…梶野、もてるんだ…


そっと梶野に目をやると、
梶野は机に突っ伏して
気持ちよさそうに眠っていた。


…まあ、松本先生の授業だから、
眠くなんのはわかるけど…


「かーじーのーぉ!!!」


いきなりの松本先生の怒声に、
梶野が跳ね起きた。

教室中に笑いが起こる。


「…おまえ、寝てたってことは…
説明聞かなくてもわかる、
ってことだよなあ??…これ、答えろ」


そう言って先生が指差したのは、
いま習ったばかりの問題だった。

…やっぱり、意地が悪い…
そんな問題、梶野が解けるわけない…

梶野はゆっくり立ち上がって、
しばらく黒板を眺めてから、答えた。


「……t:(3√2-t)」


教室がしんとなる。


「……座れ」


松本先生が悔しそうに言った。


「―…あってた!?…やった!!」


嬉しそうにそう言って席につく梶野。

教室がざわつき始めた。


―…だって、あの問題の解説、
梶野聞いてないはず…
それに、暗算で解ける問題じゃない…


「…予習は、してきてたみたいだな
でも、授業はちゃんと聞け」

「はいはーい♪」


梶野がノーテンキに答える。

松本先生は『予習してきた』で片付けたけど…
梶野が予習なんてするわけ無い。

現に、梶野の机の上には
閉じたままの教科書しか置かれてない。


梶野って…

…もしかして、頭いーのか…??

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