《MUMEI》

昼休み。


「相原せんぱい!!」


教室のドアの横からあたしを呼んだのは…


「…りかちゃん!?」


慌てて駆け寄る。


「ふふっ♪来ちゃいましたあ☆
―…ちょっと、いいですか?」


一瞬、りかちゃんの顔つきが変わった気がした。


「あの…りかちゃん、あたしも話があって…」


そう言うと、


「じゃあ、あっちで話しましょう♪」


と、りかちゃんは
あたしの手をひいて、歩き出した。


―…ちゃんと、言わなきゃ。



…着いたのは、ひとけの無い裏庭だった。


「あの、せんぱい…」


りかちゃんが口を開く。


「昨日、梶野せんぱい、
途中で引き返しちゃったんです…。
りかが、
『相原せんぱいが代わってくれた』
って、言ったとたん―…」


あたしを見据えたまま話すりかちゃんは、
お人形みたいに、表情ひとつ変えなかった。


「どういうこと、なんでしょうね??
…りか、寂しかったです」


言わなきゃ!!


「…あの、あのね!!…あたし」

「梶野せんぱいが好き、とか、
言わないでくださいよ??」

「……え…」

「りかが先に言ったんです。
…先輩、協力してくれるって言いましたよね」


りかちゃんの声は、冷たく、鋭い。


「…りか、『欲しい』って思ったものは、
絶対に手に入れないと気が済まないんですよ。
…ちっちゃい頃から」


口調が変わってる―…
本気なんだ。りかちゃん…

―…でも。


「…『欲しいもの』って―…
りかちゃん、梶野は『もの』じゃないよ??」

「…一緒ですよ。
みんな、りかには何でもくれるもん」

「…でも、『もの』じゃない。

あたしは、梶野が好き、だよ。

もう、協力はできない。
…ごめんね。
協力する、とか言っといて―…」


あたしが謝ると、


「…そんなの、会ったときから知ってましたよ!!
―…りか相手に、勝てると思ってるんですか!?

りかは、可愛いんだから!!
…先輩なんかより、ずっと―…!!」


一生懸命なのが、伝わってくる。


「…『勝てる』、とか、そんなんじゃないんだ」


りかちゃんに伝わるように、
ゆっくりと話し始める。


「…ただ、『好き』なだけ。
―…いつかは伝えたくなるかも知れないけど…
でも、今はただそれだけ。

そばにいられたら、それだけで
すごく幸せだろうな、って思う」

「………」


押し黙ったままのりかちゃんが、口を開いた。


「……そんなの、ただのキレイごとですよ」

「…そうかも、しれないけど―…」

「でも、りか、そういうの―…
…嫌いじゃないです」


そう言って、目を伏せるりかちゃん。


可愛いな、と思った。


「…でも、諦めたわけじゃないですからね!!
梶野せんぱいの傍にいたいのは、
りかも同じですから!!」

「…うん!」


校舎の方へ向かって歩いていくりかちゃんの
小さな背中を見送りながら、


やっぱり可愛いな、と

心から、そう思った。

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