《MUMEI》
片付け
椅子を片づけていると、
りかちゃんに声を掛けられた。


「…先輩、手伝います」


今日、りかちゃんと話したのは初めてだ。
そういえば、体育祭の間、1回も見かけなかった。


「あ…ありがと」

「いーえ!」


それから、無言で椅子を運ぶ。

しばらくして、りかちゃんが口を開いた。


「…あの、先輩…」

「…なに??」

「あたし、…もういいです」

「…え??…なにが…」

「梶野せんぱいのこと!!
…もう、いいです!!」


いきなりの宣言に、あたしは言葉を失った。


「…で、でも…」

「なんか、もういいかな、って。
…言っときますけど、
先輩に遠慮してるわけじゃないですよ??」


そう言って、りかちゃんは微笑んだ。


「だから、気にしないで、
梶野せんぱいのハートをゲットしてください!!
…他の人に負けたら、許しませんよ!?」

「??…う、うん…」

「…じゃ、また!!」


そう言って、りかちゃんは
持っていた椅子の片側の手を急に放し、
来たほうへと駆けて行った。


「うっわ…!!!」


バランスを崩してよろける。


―…りかちゃん、笑ってたけど、
…さみしそうだった。


振り返ったときにはもう、
りかちゃんの姿は無くて


―…なんだか、とても切ない気持ちになった。

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