《MUMEI》
・
黙ってしまった裕斗を後ろから抱きしめてやる。
「嫌か?」
裕斗はうつ向き緩く頭を振る。
「さっきの話な…、ちょっとびっくりしたけど…、さすがにいっぺんには飲み込めねーけどさ…、
でもちゃんと話て貰えて嬉しかったから…、有難う。
俺との事真剣に考えてくれて…。お前の背中押してくれた加藤君には俺も感謝しなきゃな」
裕斗は俺の手を掴み胸に、大切そうに抱きしめた。
俺は裕斗が気配で泣いている事を察し、頬に頬を擦り寄せた。
「…何も心配すんな、俺が裕斗を嫌いになる理由はどこにもねーし…、裕斗の親友は俺にとったって大切な奴だから…、だからよ…
俺に気兼しねーで毎日顔出してやれな…」
本当は死ぬ程嫉妬してるさ…、会いにだって行かせたくはねえ…
だけどそれは今は封印してやる。
それはそいつが対等な立場になってからだって遅くはねえ。
「いいの?俺…直哉に会ってても…秀幸平気なの?」
俺は力強く抱きしめ直して…
「俺はひたすらお前を信じる事にした、
だから覚悟して会いに行け。常にお前の後ろには俺が居るの忘れんな」
――大人の空元気、
嘘の余裕。
俺は裕斗にとって一番心に良い事を促してやる。
「有難う…、俺頑張って箸使い覚えるよ」
「はは、そうだな、よし完璧になったら物凄い料亭に連れてってやるよ!ししおどしがカーンってなって鯉がヒョロヒョロ泳いでるところよ!」
「うわ〜!気合い入れて頑張ろっと!」
裕斗はいつの間にか笑顔になっていた。
この子は今まで結構色んな事背負ってきたんだなって思うと、余計に愛しさが増した。
――俺がコイツを守る。
「ね、秀幸」
「ん?」
「明日、楽しみ…」
「…俺もだよ」
俺は愛しさを注ぎ込む様に、何時までも裕斗を抱きしめずにはいられなかった。
・
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫