《MUMEI》
寝顔
「裕斗君随分合わないうちに見違えたわね、前から格好良かったけど更に磨きがかかって」
「そんな…、有難うございます」
俺は直哉の母さんが差し出してくれた丸椅子に座った。
俺は雑誌の取材をこなして真っ直ぐ病院に来た。
するとICUから個室だけど一般病棟に移っていてめっちゃほっとした。
管の本数も減ってモニターの感じも変わっている。
窓から差す日差しも何だかほっとさせてくれる。
「さっき起きてたのよ、話かけると瞬きで返事もしてくれたし…、本当に助かって良かったわ」
おばさんは直哉の髪を撫でながら涙を浮かべて言った。
俺は直哉の寝顔をじっと見つめる。
見慣れた…、何時もと変わらない。
今にも起き上がってきそうな…元気にしか見えない。
「障害は…どうなんですか?」
「それがまだ分からないのよ…、強いお薬使ってたから、抜けるのに一週間かかるんですって。だから一週間後が今現在の症状らしいわ」
「…そう…ですか」
何とも言えない切なさが込み上がる。
――また直哉と話がしたい…、直哉…。
「でもきっと大丈夫よ、だって直哉は強いもの…、それに大切なお友達も来てくれたんだし!
大丈夫、ね…直哉…」
俺はおばさんの横顔を見た。
疲れた表情の中にも…何か…強さを感じた。
ちゃんと…、直哉には兄貴もお袋もいる…。
そして…親父さんだって……
―――だから…
「なおー、頑張れよ、頑張んないと承知しないからな〜」
俺は直哉の大きな手を取り、両手できつく握りしめた。
柔らかな日差しが直哉の頬を撫で、僅かに脱色された短い髪が光る。
髭はきちんと落とされていてマジで子供っぽい寝顔。
「なお…」
やっぱり直哉は俺にとって大切な存在。
恋にはなれなかったけど…、大切な…
大切な存在には変わりはなくて……。
俺は何時までも直哉の手を握りしめていた。
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