《MUMEI》
優しい遅刻常習犯
「なんで…?どうして…?八神は…?」
晴香は聞きながら、梅ヶ丘が座る席の前まで行った。
「八神に指名されたんだよ。八神…転校するらしいからな…」
「へ…?」
晴香は情けない声を出し、肩を落とした。
そんな晴香を見て、梅ヶ丘は眉間に皺を寄せた。
「お前…何も聞いてないのか?」
晴香は微かに首を縦に振った。
しばらく沈黙が続いた。


 晴香は崩れそうな心を必死に保っていた。
 堪えていたのに涙が溢れる。
 呼吸が苦しくなる位胸が痛む。

そんな晴香を見て、梅ヶ丘は溜め息をつき、ポケットからぐしゃぐしゃの紙を取り出して、手近にあったシャーペンで何かを書いて、晴香に手渡した。
「なぁに…?これ…?」
晴香は涙を拭いながら聞いた。
「八神の家の場所だよ。病院じゃお前が来るから、荷造りなんてしてらんないって言ってたからな。きっとそこだ」
晴香の涙はピタリと止まった。
「…遅刻常習犯が優しいんだね…」
「お前…それ褒めてないよな?」
梅ヶ丘は晴香を睨んだが、晴香は笑顔だけを向けた。
「ありがとうね、梅ヶ丘君。」
晴香はそう言って梅ヶ丘に背中を向けて、応接室を出て行った。

「あいつも不運だな〜」
梅ヶ丘は誰もいない部屋で呟いた。
応接室には、西日が差し込んでいた。

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