《MUMEI》
梅雨の季節
冥聖女学院で泳ぎの練習を始めて、2ヶ月が経とうとしていた。

部活の後の水泳というものは酷く体力を使い、慣れるまでの2週間の間に勉強を疎かにしてしまったせいで、宿題を忘れたり、授業中寝る等の失態を繰り返してしまった。

―沢村雄貴の名を汚してしまった…。

「沢村〜今日から週番だよ〜」
「ああ」
俺は有河原樹から日誌を受け取りながら応えた。
俺はこいつの事をライバル視しているはずなのに、日に日に距離が縮まっている気がする。
気を許したら、一口で食われてしまうに違いないのに…。
「はー最近雨ばっかだね」
「だな」
桜の花が散り、木々が青々としてもうすぐ初夏だと思っていたのだ。しかし、6月になって、例年通り日本に梅雨前線が直撃して日々大粒の雨が地を濡らしていた。
だから、しばらくプールに行っていない。
あの日知ったことは、有河原樹がカナヅチだと言うこと。
だが、俺にくっついてプールに通ったせいで、メキメキ実力を上げ、既に25mも泳いだ。

俺の計画歯車は日に日に大きな音を立てながら回っている。今にも歯車が外れそうだが、俺の計画は崩れない…絶対に崩さない。

―有河原樹の存在を計画に入れ忘れていただけなのだ。

有河原樹に受けた屈辱は、この雨と共に流してしまおう。

「沢村ぁー」
俺がそんな事を思っていると、誰かが俺を呼んだ。
俺と有河原樹は声の方を振り返った。

そこには、クラスメートの吉田達哉【ヨシダタツヤ】が立っていた。隣には、セミロングの小柄な女子。
俺は軽く手を上げた。
「よう吉田。お前が女子連れてるなんて珍しいじゃん」
「お前にご用だとよ」
「は?」
俺が女子を見ると、女子は俺から目を反らした。

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