《MUMEI》
雨色
二ヶ月前の六月。

梅雨前線が日本を直撃し、日々ドシャ降りの雨が降っていた。

その日、あたしは委員会で、傘が無く、友達も先に帰ってしまっていた。

仕方なくあたしは、水溜まりを踏みながら走って帰ることにした。

あたしの家は、徒歩15分くらいの町外れの古びた本屋。
頭に鞄を乗せて走っているあたしとは違い、擦れ違う人は色とりどりの傘をさしていた。

目の前の信号が赤になってしまった。
あたしは『早く替われぇ〜!!』と思いながら足をジタバタさせた。

ふと気がつくと、鞄を支えているあたしの手に雨粒が当たる冷たい感覚がなくなっていた。

あたしが上を見上げると、黒い傘が雨からあたしを守ってくれていた。

「寒そうだから…」
その声の主の方へ目をやると、マンガでは回りにキラキラが付きそうなほどの美形男子が、高い目線からあたしを見ていた。

「あ…ありがとう…。」
あたしは小さく口にした。

高い身長、整った顔立ちに黒の瞳に髪…スラリと長い足…長く綺麗な指…。
あたしはその姿につい見取れてしまった。

信号は青に変わった。

あたしと彼は足並みを揃えながら、横断歩道の向こう側へと歩いた。
彼はあたしの歩幅に合わせてくれていた。

横断歩道を渡り終わると『じゃあ』と言って彼は右の道へと進んで行った。

…あたしの家は左の道…。

あたしは肩を濡らしながら、しばらく彼の後ろ姿を見つめていた。

あの制服は…神月【かづき】高校…。
名前…聞いとけばよかった…。

その日から、あたしの胸は彼の事でいっぱいになった。






それが…あたしと彼の出会いだった。

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