《MUMEI》
消えた八神
―ピーンポーン
晴香は梅ヶ丘に貰った地図を元に八神の家へ行き、インターホンを鳴らした。
―ガチャ
ドアが微妙に開いて中からしわがれた女の人が顔を出した。
「あの…どちら様で…?」
消えそうなほどの微かな声だった。
「あの…私八神君の友達の後藤と申しますが…八神君は…?」
女の人は晴香を見て、少し躊躇ったそぶりを見せたが、しばらくして、
「待ってて下さい」
と言った。

しばらくして、別の人が顔を出した。見た事ある顔…。
「やあ」
「あの…えっと…」
「八神の兄貴です」
「ああ…先日はどうも」
晴香は頭を下げた。
八宵は首を左右に振る。
「いやいや…こちらから伺わなくてすまなかった」
「いえ…それで…八神は?」
晴香が聞くと八宵は俯いて深刻な顔をした。
「…居なくなった…」
晴香は八宵の言葉の意味が解らずしばらく停止していた。
「嘘…ですよね?」
晴香は八宵を見つめたが、八宵は目を反らした。

晴香は何も言わない八宵を置いて八神を探しに行った。
八神はさっきまで車椅子だったのだからそう遠くへは行けないはずだ。
晴香は自分にそう言い聞かせて、枯れ葉に埋もれた並木道を足早に歩いた。
―学校へ

地下室に何かがあるかもしれない…手掛かりになるものが…!
晴香は心の中でそう叫んだ。


早く会わないと八神が消えてしまうような気が晴香にはしていた。

「八神っ…」
晴香はいつのまにか走り出していた。

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