《MUMEI》

プライド捨ててたから、キスも出来た。……やっぱり彼のは良かったな。
でももう少ししたかった。ウチ先輩が来る前に木下先輩で繋いどけば良かったか?

駄目だな……、あの人どうも苦手だ。木下先輩の何も知りませんみたいな、ポケーとした計算を知らない顔。つい、腹が立ってちょっかいかけてしまった。
そうそう、ウチ先輩のあの顔ったら傑作だった。幸せそうな恋仲が崩れた時ほど面白いものはない。

美しいものなんてないって実感する。昔は恋人の仲を拗らせる遊びが自分の中で流行っていた。

だからか、俺みたいなのがいるから木下先輩みたいなのが純真とか無垢とか言って愛でられる。俺は華奢でもないし素直でもないからね……。
あまのじゃくでヒーローショーでも一人悪役に声援をおくるようなガキだった。

『泣けない』だなんて知った風な口ぶりが引っ掛かる。泣けなくなったのはいつからだっけ。多分、あのときだろう。







あれこれ考えたくない……こんな時、無性に抱かれたい。全て忘れたい。
誰でもいいや。プライドなんて元からないし。

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