《MUMEI》
誰よ彼
「昔々、浦島は、助けた何かに……何だっけか?」

年取ると忘れっぽくて嫌だね。これから仕事だっつーのに見て見ぬフリすりゃいいんだけど俺もお人よしだよな……。
仕方ない、2対1で暴行されてる人間と目が合ったら助けるしかない。


「ケーサツ呼ぶ前にさっさと消えた消えた。」

数発不意打ちして携帯をチラつかせて脅したら尻尾を巻いて逃げた。
クソ、スーツ皺になったじゃねーか。せめて衿くらいは正す。時間ないから路地裏から近道しようとしたのに、倍のロスになった。

「何したか知らないけど、死ななくて良かったな!」

助けた男の上を跨いで走る。サービス業に遅刻は厳禁だ。仮にも俺はNo.1で店の看板背負ってるんだから泥を塗るようなことは出来ない。





「レイさんお早うございます!」

本名、小暮国雄の店での源氏名は『レイ』だ。
昼は近所のお兄さんの小暮国雄と夜はお客様に最高のおもてなしをするレイの生活は割と気に入っている。
隣人としてのご近所付き合いは楽しいし、この仕事は天職だと自負している。



………………あ、名刺。
さっき落としたのか?

「レイさん、派手な頭の男が裏口で待ってます。」



「届けに来たのか、悪いね!口切れてるぞ、絆創膏やるよ。」

派手な頭でピンと来た。大学生くらいの180より小さめの男だ……小さい訳じゃないけど、俺は約2メートルだから大体のものは小さく見える。男はピアスが両耳合わせて七ツも空いている。俺も金髪で両耳に一つずつ空けているから他人の事は言えない。

「クリーニング代くらいは出すけど。」

男は絆創膏を受け取らずに財布を出そうとする。咄嗟に手を掴んだ。

「いいって、学生に金出させるほど落ちぶれてないから。…………お、失礼。」

手を離してやる。

「じゃあ、客連れてくるとかすればいい?」

「あのなあ、それなりに繁盛してますから!学生は学生らしく勉強してなさい。」

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