《MUMEI》

「らしいって何?」

なんか、変な奴だ。目が死んだみたい。笑ってるくせに生気が抜けている。

「……辞書でも引け。恩を売った訳じゃないから、通りすがりのカッチョイー人に助けられちゃったラッキーくらいに思っとけよ。
そら、良い子は帰った。」

「帰る場所ない。」

「友達のとこでも行け!」

「待ってていい?」

小雨が降って来た。

「お断り。俺、朝帰りだし。店の前で野垂れ死なれたら迷惑なんだけど。」

「この隣の店の後ろの路地にいるから。」

正気かコイツ。

「俺、守れない約束嫌いなんだよね。」

「俺も」

小雨で毛先が濡れ初めている。俺は店の屋根の中に入っていて肩を湿らす程度だった。

「レイさんー」


「ああ、今行くから。」

振り返らないで店に戻る。待つなんて、1番不確定な行動じゃないか。
馬鹿がすることだ。
あいつは悪知恵がありそうだった。誰もいない路地に俺が行くのを想像しながら寝る前にほくそ笑むのだろう。

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