《MUMEI》

健気に帰りを待つ。
待つのは得意だ。約束は昔から守れる子供だった。
母さんが男が来るから暫く帰ってくるなと言えばきちんと守ったし。……だから女が嫌なのかな。

ずっとおじさんが父親代わりだった。

煙草が吸いたいのに灰皿が見当たらない。ごみ箱からビールの缶を見つけて代用する。換気をよくしておく。煙草はおじさんに教えてもらった。


仕事して朝帰りの国雄を待つの繰り返し、移動中はずっと眠りこけている、悪循環だ。





「……寒い!」

国雄が帰ってきた。開口一番これかよ。

「お帰り」

窓を閉めに行く。

「煙草、出しなさい。」

伸びた手に箱を渡す。

「……国雄は吸わないの?」

煙草吸ってそうなイメージなのに。

「禁煙したの。死ぬからね、お前こそ止めろよ未成年。」

「俺は別に死んでもいい。きっと俺のために悲しんでくれる人はいないし。泣いてもきっとその一瞬で忘れ去る。」

「いいから止めろって。年長者の言う事には従え。」

「……禁煙、いいよ。俺は国雄の奴隷だから。
その代わりに俺が事故死とかしたら一瞬でいいから泣いてね。」

好きになった人に一瞬でも泣いてもらえればそれはそれはいい人生だったと思えるだろう。

「奴隷はいらないし守れない約束はしない。」

「つれないな。
そうだ、レイって女性?」

「手紙盗み見たよな?一人称私だっただろう」

「だって国雄は俺みたいなコテコテの男を抱けたでしょう?」

「男抱ける奴が皆ゲイと思うなよー?」

サービス用の笑い方だ。

「じゃあやっぱり両刀?」

「下半身は対応してても好きになったのは女だけだ」

「うん、同じだ。
俺もカラダが両方出来ても好きになったのは男だけ」

「全然違うだろう。お前と一緒にするな。」

怒ってる。ネクタイ緩めて寝室に入って行った。
最初は帰れの一点張りだったのに話しすることが出来た。
俺って努力家。

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