《MUMEI》

「俺は生憎非売品だから。お前に買われるほど落ちぶれちゃいない。この仕事に誇りもっているし。」

高遠は愛されたいのだろう。俺がかつてそうであったように。

「いくらなら動く?
その誇りさえ、買ってしまいたい。」

こだわるね、俺みたいなののどこがいいんだ。

「二流タレントが何を言ってんだか。」

「一流になればいい?」

馬鹿だなこいつ。ホントに奴隷だ。

「さあね。俺は世の女性のものだし、お前のこと好きになれないし。」

「レイが忘れられない?償っている?」

分かった風な口ぶりをする。レイの名前で俺を怒らせるのは俺がコイツに対して憎んで嗜虐するからだろう。たとえ痛みでも自分の存在を認めてほしいんだ。

「その手には乗らない。俺は抱かないから。
愛情以外のもので衝動的に行動しない。つまり、もうああいうことにはならない。」

「……したくせに」

五月蝿いな。

「抱きはしないけど殴るかもしれない。」

指が鳴る。

「大歓迎だね。」

俺へ首を伸ばす。

「マゾだ……」

真面目に相手してたらきりがない。掃除を再開した。

「血だから、仕方ない。」

変なことを言う。
その血という意味は暫くして美容室で読んだ週刊誌で判明した。

高遠母子は暴力を父親から振るわれていて父親は家を空け母親は浮気を繰り返していたという。

どこまでが本当か知らないけど、あのニュアンスは何か含まれていた。

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