《MUMEI》

「小暮君!私のこと覚えてる?レイと同じサークルの……」

世間って狭い。

「覚えてるよ、葬儀のとき見かけたから。」

たまに髪切りに出掛けたらこれか……。俺に何を話させるっていうんだ。

「笹川君結婚したの知ってる?ほら、文化祭のミスに選ばれた飛山さんと……

全然変わらないからびっくりしたー。金髪似合うね。
今は何してるの?」

きたきたきた。

「夜の帝王?」

間違いではない。すげー昼間から飲むな……確かレイの仲良し三人組の一人だ。

当たり障りのない話を繰り返した後酒井さん(とかいう名前だった)を家まで送る羽目になる……が泥酔して倒れた。

仕事あるし家に入れると高遠現象になると嫌だからその辺のホテルにでもお金払って置いて行こう。



凄いいびきだな。三十路女もここまでくると悲しい。独身みたいだった。

「うー……何処?」

いきなり酒井さんは起きて千鳥足で歩き出した。
怠そうに途中で止まって電柱に寄り掛かっている。

「酒井さん、悪いんだけど俺、仕事あるから送っていけないんだ、適当に空き部屋借りたから自力で頑張って帰宅してね。」

エレベーターまでおぶる。

キーを見ながら部屋の階を確認する。ぐでんぐでんの酒井さんを支えながら降りた。

「こーぐれくーん……」

「酒井さん声大きいよ。」

また背中におぶろうと彼女の腕を肩に掛けた。
自分から乗っかってくる。

「もっと飲も?好き……」

キスしてきた。




 チン

エレベーターが開く。
口は塞がっているから話せなかったが目が合う。

高遠が降りてきた。

こんなとこで何をしているんだ?
問いただす前に横を通って消えた。

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