《MUMEI》

「高遠だ。」

「あ、木下先輩。仲直りえっちしましたか?」

部活に出てみた。挨拶がてらに先輩にカマかける。

「馬鹿!お前のせいで……」

全くわかりやすいな。

「まだケンカ中ですか、長いすね。」

「うっさい!
あれ?なんか、暫く見ないうちに怪我してる。」

首筋に人差し指と親指だけ痕が残ったり、前のリンチで打撲がいくつかある。
暑くて我慢ならないから、第三釦まで開襟して袖をめくっていた。

「見せた方が傷ってカッコ良くないですか?」

「勲章みたいだな。」

「……木下先輩って鈍いのか鋭いのかわかんない。」

「普通だよ。高遠が弱っているくらいは分かる。」

「俺、先輩みたいになりたかったかも。」

「いつになく弱気だね、高遠は高遠じゃないか。
俺だって高遠になってみたいよ。」

「テレビの仕事なんてつまんないすよ?」

「でも演技上手かったよ。あれだけ演じられれば楽しそうだね、あと、高遠くらい本能のままにずけずけ言ってみたい。」

「厭味ですかそれは」

「誰かに対して物を言うことはそれだけのリスクと相手を見極める力が必要だからね。尊敬に値する。」

喜べばいいのか悪いのか。

「俺の場合は自分を探られないように先手を打っての行動です、臆病なんですよ。それに先輩だってはっきり言ってるし。
俺も先輩みたいに可愛いとか言われてみたーい。」

無い物ねだりだな。

「今日はよく話すね。
高遠はもっと冷めた人間だと思ってたんだけど、乙矢に告白したり情熱的なところもあって安心した。
俺はそーいう子供っぽいところとか、かわいーって思うけど。」

この人は真顔で言うから怖い。俺が普通に思春期だったら襲っていた。

「……そんなこと言うからウチ先輩に怒られんですよ。じれったい。
あんたら隣に並んでないと落ち着かない。
両想いのくせに贅沢だ!」

みっともない八つ当たりかもしれないけど、好きな人が好きと言ってくれる有り難さを分かっていない。

「高遠……ごめん。」

圧倒されて謝られた。
醜態を曝してしまう、上手く感情のコントロールがきかない。国雄が俺を狂わせているんだ。

全部、あいつのせいだ。

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