《MUMEI》

「国兄!ツンの散歩するなら一緒にいこー!」

お隣りさんが愛犬を預かってくれていたんだった。
隣人の息子なな君は俺を慕ってくれている。
弟を思い出せて嬉しい。

「ちょっと着替えるから待っててね。」

スーツのまま寝てしまった。最近、うっかりが多い。

寝不足だからかもしれない。お客と話してもぼんやりしてしまう、頑丈なのが取り柄だったのに。
仕事に穴空ける訳にはいかないから注射打ったりしてでも行くけどね。

「国兄てチワワってイメージじゃないね。
もっとドーベルマンとかレトリバーみたいな犬とかさあ。」

「大型犬は場所確保大変だもん。それに本当は犬嫌いだったんだ……。」

「どうして?かわいーのに」

「小さいものって先に死ぬからね。脆くて儚げで繊細で……、でも、だから尊いんだ。大事にしてあげたいって思う。」

「ツンは幸せもんだなー。俺も見習わなきゃ。」

なな君はツンの顎を撫でた。

「じろー君かい?」

一瞬固まったのが分かる。

「……喧嘩してるんだ。」

「後悔してるなら謝った方がいい、時間が延びる程辛くなるよ。」

「俺、嫉妬深いのかも。あいつのこと縛ってるんじゃないかって思う。
じろーは俺以外のもっといい人と一緒になれるとか……国兄もそういうこと考えたことある?」

「あるよ、でも謝らないのは一番自分にも相手にも悪かった。
言えなくなる前に思うことは全部言うべきだ。俺みたいに犬だけ置いてかれちゃうから。」

レイはずっと犬を飼いたいと言っていた。愛されて生まれたツンの名付け親はもういない。

ツンの鳴き声はたまに泣き声に聞こえる。

……なんで今あいつの顔思い出したんだ。

「あ、そうだ国兄、明日時間取れたら学校祭来てね」

「明日か、わかったよー」

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