《MUMEI》 笹川兄とは久しぶりに会った。俺がまだ大学生のとき、講師として度々招き入れられていたのが彼だ。当時から様々な著作だのを持っていたり、若くして文才にも運にも恵まれた天才だった。 まあ、眠気覚まし程度に聞くには調度いい話だ。 なんでこんなに話せるまでになったのか、友人の笹川の兄も理由の一つだったが、俺が学校で道徳に欠いていたのを見られてからだ。 欲望に忠実な俺は外でも何処でも節操無くヤっていた。そんな俺に彼は 「その女のコのカラダ気持ち良い?」 と聞いて来た。直後、俺の知る変わり者の上位にランク付けされる。 程なく彼の口から 「イマイチだったね」 という感想を貰う。その見られた相手とはその日限りで終わっていて、なんだか二人通じるものがあった。 唯一話す教員だった。 「金髪目立つね。何してるの、チンピラ?」 以前よりぼんやりした雰囲気が増していた。相変わらず眼鏡の似合う好青年な外面に騙された女を泣かせているのだろう。三十過ぎのおっさんにはとても思えない男だ。この調子だと生徒に手を出す癖も抜けていないのだろう。 離婚した気配は無いからまだ別居しているのか。 「ホストです。弟の結婚おめでとうございます。」 「寿史に伝えとく。ホストて、嘘だあ。媚びるの大嫌いな君が?」 寿史って笹川が本名で呼ばれているのは変な感じだ。 「変わったんですよ。媚びてません、立派な接客ですから。あんたは相変わらずエロ教師してるんでしょ」 立ち回りが器用でヘマをしない男だ。 「あれ、知らないの?俺物書き一本にしたんだ。 去年賞も取った。名前も変えたし恵良って母方の名字借りた。」 「聞いたことあるかも。でもそんなに売れてないでしょ。賞だって根回ししたんじゃないすか?」 話題の問題作って帯だった気がする。 多分、ドロドロしている。幾つもの山場を経験しただろうから。 「失礼だね。それなりに反響は良かったよ。 欲しいものは多少強引にでも手に入れて見せるさ。」 後半は冗談なのだが素直に笑えない。彼が言うと説得力があり過ぎる。 前へ |次へ |
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