《MUMEI》
硝子
見てはいけないものだったようだ。放送室になな君がいるのかと思って顔を出したつもりだったのだが。


「国雄さんだー。」

体育館で次郎君が手を上げている。

「これ食べかけで悪いけどいるかい?」

屋台で買ったタコ焼きは一つだけ手をつけて止めてしまった。

「要ります!やったあ。」

次郎君は無邪気に喜んだ。

「なな君ステージだったんだね。放送室行っちゃったよ。」

「あー伝え漏れたか。今は後輩に任せてて……」

高遠が放送部だったとは。

「忙しいみたいだからぐるっと回って帰るかな。頑張ってね裏方。」

なんて、律義に挨拶をして帰る。早足になってしまった。なんでかはよく分からないが、あの高遠の瞳が離れない。

あいつは俺以外にもあんなことを出来てしまうものなのか。
……それはそうか、相手は笹川千寿だ。誘われて悪い気はしないだろう。

酷く口寂しくなる。久し振りに煙草を買ってコンビニの前でしゃがんでふかした。一度は止めたものだ、あまり美味しいとも思えなかった。

「俺にも火貰える?」

笹川兄の指が目の前で煙草を一本回した。

「俺から火貰うなんて中々勇敢ですね。」

夜の帝王からの火ですよ?

「……同族のよしみでしょう。」

職業病だ、ついつい火を点けてしまう。

「あんたと一緒にしないでほしいです。」

「共通のモノを所有した仲じゃないか。うちの義弟は悦かった?」

「……違います。」

「とぼけても無駄、君の家通ってたの知ってるから。
3Pでもさせたげようかと思ったのに。なんなら今からヤる?」

笹川兄は携帯を取り出し番号を打つ。
引ったくり電源を切る。

「何考えてるんですか。」

「にゃんこの調教だよ。

君はウチの子どうしたい?
貸し付けてあげてもいいんだけど許可を取ってね。一回につき一万だから。
今の請求額は五万くらいかな?」

笹川兄は携帯の電源を入れ直す。

「一万です。払いませんから、人格を否定してる。」

猫?貸付け?人間以下だ。

「どうかな、本人は喜んでいる。物みたいにされたいんだ。証明出来るよ、本人に聞けばいい。
今からでもここに呼んでやろうか?」

笹川兄は昔から上から物を言う男だった。

「学校祭中に?」

「俺が言ったら絶対来る。」

自信があるようだ。

「まさか、来る筈が無い。」

「じゃあ今から勝負しようか。
来たらどうしよっかな〜」

勝つ気だ。不敵な笑みを浮かべている。

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