《MUMEI》

「国兄ー、録画頼んでいい?」

ビデオデッキはあるが、録画機能が故障している隣人の内館七生からはよく録画を頼まれていた。互いに節約しているので当分はブルーレイ等にはついていけない。

「いいよ、明日?」

「明日から二日間遠征だから……、二夜連続ドラマスペシャルを録画して欲しくて、あ。高遠出てる。
国兄、ここだけの話この高遠光ってウチの部員なんだ。」

七生は雑誌のテレビ欄を指し示して自慢げにしていた。

「へーそうなんだあ。」

知っているけれどここは知らないフリが妥当である。適当に話に区切りを付けて帰ってもらい、スーツに着替えた。
出勤まで時間がまだあり、ぼんやり煙草を吸う。
肺へ煙を循環させるように呼吸する。

このかんじ、胸が焼け付く心地悪さ。

高遠の肩にかかる千寿の絡み付く指が去り際まで気になった。
払いのければいいだけなのに、なんで俺を……

レイのときと似ていた。

レイを思い出すと嫌な記憶が巡る。
そんな思考を払拭すべくゴミの分別し始めた。

ふと一枚のハガキを手に取る。裏には電話番号が書かれていた、もう片手には携帯を握っている。自分でも信じられない行動だった。

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