《MUMEI》

大学生になった俺は結婚し院生として残った兄貴の通学専用のマンションの部屋を借りて暮らし始める。(兄貴とは大学は別だが距離が近い)夫婦仲はほぼ別居で良いとは言えないが、兄貴は大学生の頃から執筆活動を始めその才能を遺憾無く発揮し、セレブだった。ともかく世の中金が大事という訳だ。俺はそのおこぼれに与るまでのこと。

なんといっても睦美さんの家付近にあることが俺には魅力的な立地条件だった。

俺は無知で、小学生の光が俺と兄貴のところへ夜に遊びに来ることになんの疑問も持たなかったし、当然のように俺のベッドで光は眠り、兄貴は睦美さんの家に光をおぶって送った。

そのうち光は俺の部屋に昼も居座り半同棲生活みたくなっていた。
光はまだ小さくて、俺の勉強してるときも黙って胡座をかいている膝上に潜る。

「兄貴遅いな……、お腹空いてない?」

「……いらない」

俺の中でうたた寝し始める。二年経って光は母の面影がより色濃くなった。きっと成長したら男前になるだろう、なんて横顔を見て想像した。
子供って体温が高くて心地良い。小さくて柔らかくて潰れてしまいそうだ。睦美さんの小さい頃もこんな可愛いかったのかな……。

目にかかりそうな前髪をそっと払ってやる。
友達の血統書付きの猫がこんな触り心地だった。
薔薇色の頬にそれと同じ唇。肌が白いのでコントラストがついている。
唾液が口から漏れそうで、何か塗られたように艶やかだ。

自然と手の動きが勉強から離れた。

睦美さん……。

寝息をたてている光に呼吸を合わせながら彼の唾液で唇を濡らす。

恍惚の波が押し寄せて来る。柔らかいのと温かいのが吸い付いてきた。



鳥肌が立つ、自分は何をしたのか。

こんな年端もいかない子供に……。

「…………う」

光が呻いた。

「ごめん、いいよ眠ってて」

目隠しして光に見られないようにした。
睦美さんと同じ綺麗な瞳に自分の浅ましさが映ることが怖いからだ。あの目で見られては堪らない。


光は弟のように可愛がっているつもりだ。しかし、それ以上に睦美さんを愛してる。

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