《MUMEI》
兄弟
「すきだよ」

「俺もだ」

光の甘い声につられて相槌のように答える。
居場所がないのだろうか。俺が家にいるときはひよこみたいにどこへだって後を追うし、いないときは俺の布団に包まって眠っている。時折、小学生に思えない影のある面持ちで見据える彼も俺に甘えて好意を示してくれるのを見ると、自分の可愛い弟なのだと安心する。

キスしたことも気のせいに違いない。

「参観日があるんだけどおかーさんやおとーさんの代わりに来てくれる?」

学校で貰ったプリントを見せられた。

「二人とも忙しいのか?」

「……わからない」

「まだ話してないなら言わなきゃ。」

「怖い、嫌われるよ。」

震え出した。急変した光を抱きしめてやる。

「そんなはずないよ」

「だって、要らない子だから、話しちゃいけないし、邪魔しちゃいけない、だからここに行きなさいって……」

光の言葉は曖昧で、ただ一つはっきりしたのは俺が今まで見て来ていたはずの高遠家は偽りだったということだった。

腕の中で眠っている光を抱えながら睦美さんの家を尋ねる。
いつもなら兄貴について玄関先までが精一杯だった。今日に限って兄貴の帰りが遅い。代わりに光の家に行ってみたくなる。

何か核心に触れたように思えた。
鍵がかかっていてインターホンを押そうとすると目覚めたらしい光が肩を引っ張った。


「……駄目だよ、入っちゃ。もう一人で大丈夫だから。ばいばい」

「どこに行くんだ。」

「大丈夫、裏から入れるもん。」

肩に光の小さな拳が当たる。

「俺もおじゃまするよ。」

背中にがっちり付着させたまま裏のベランダに回った。

「やだよ、おかーさんが嫌いになっちゃう。」

涙ながらに懇願されては罪悪感が生まれる。

「わかった、静かにするから。じゃあ、光が隊長になって俺に命令して。」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫