《MUMEI》

「名前はツンだよ、可愛いでしょう?

私が入院したら面倒見てね。まだ生まれたてだからちゃんと躾もしてね。」

しれっとそんなことを言ってのける女だった。

「何でこのタイミングで犬?」

「命を育てたかったの、もう子供は無理だから。

だから、私の分まで可愛がるのよ。」

レイはその後、ツンを俺に預けて笹川と婚約した。

形だけだ。

レイの親の気が少しでも紛れるようにだった。

なんだ……俺だけが情けないままの気持ちじゃ無かったのか。
レイとは笹川との婚約前に性の価値観で揉めたのを覚えている。

「向こうから言い寄るんだ、拒む必要はないだろ!」

「サイテーなのも治ってないのね!
あんたは誰とでも寝るんでしょ、いつか好きな人に捨てられるんだから……」

レイを信用していた、俺は裏切られるはずないと高を括っていたのだ。

「やれるもんならやってみな!」

強引に唇を奪った。レイとはそれきりだ。
葬式からすぐ後本人直筆の手紙が届く。
笹川はアレルギーだからツンを頼むということ、家族のこと、差し障りのない俺への心配ごと、変わらない彼女に拍子抜けしてしまった。

ツンはレイの子供だ。ふと思う、俺も彼女の子供みたいなものだったのではないのかと。

レイに対する気持ちは告白できなかったことよりも、喧嘩別れのままレイに手紙で折られてしまい、謝れなかった情けなさが強い。

おめでとうの一言くらい贈りたかった。

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